新型コロナウイルスの流行によって、全国の観光地にとって、2020年はワーケーション元年になりました。観光の文脈で考えている自治体も多い中、それより2年早い2018年から立科WORK TRIPをはじめた立科町は、なぜワーケーションに取り組むことにしたのでしょうか。立科町企画課・地域振興係の上前知洋係長がその理由を語ります。

住民のためのテレワーク事業がはじまり

 立科町は、産業の5割が製造業・建設業、2割が飲食業・サービス業で占められています。心身ともに健康な方ならばできる仕事ですが、さまざまな事情で従事することが難しいという方々もいらっしゃいます。たとえば高齢者、障害者、幼い子どもを抱える女性、ニート、引きこもりの方などです。

 日本の他の中山間地同様、人口7000人の立科町も生産年齢人口は減り続け、町内にある仕事の幅はそう広くはありません。オフィスワークは車で30分以上移動しないとありつけない。そこで浮上したのがICTを活用したテレワークです。

 民間企業ではない町が主導してテレワークをやるとしたら、営利性を追求するよりも、さまざまな理由で就業が難しい方の「社会参加」を促す「社会福祉型テレワーク」が最善ではないか、ということで方向性が定まりました。

企業進出型テレワークのための立科WORK TRIP

 このテレワーク事業を成立させるためには、仕事を外から持って来る必要があります。

 ひとつは、2009年からこういった事業を展開する「一般社団法人 塩尻市振興公社」と提携して、業務を受注する方法です。

 もうひとつは、立科町に企業を呼び込む「企業進出型」で業務を受注するというものです。この企業進出型を進める取り組みのひとつとして、立科WORK TRIPがあります。

 ワーケーションにはさまざまなかたちがありますが、立科町が主に想定しているのは、法人の小規模な団体利用です。たとえば、開発合宿、アイデアソン、経営・企画会議、オフサイトミーティングといったものです。特に開発合宿、アイデアソンについてはすでに市場があることがはっきりしていたので、チャンスがあると考えました。

 企業に来てもらうことは、立科町の良さを体感してファンになってもらえるチャンスとなり、関係性を築く端緒になります。関係性ができれば、企業のニーズとテレワーク事業が合致するポイントを見出していくことが可能になります。

立科町にあって他にないもの

 ワーケーションにおいて、他にない立科町の特徴は3つあります。

 ひとつは、ワーケーションに特化したポータルサイトを持っていて、集中的な情報発信ができること。ふたつ目は、ワーケーションに必要な機材や消耗品などを、設置・撤去も込みで、無償で貸し出していること。もちろん事前に確認できるように、ホームページに機種や型番まで載せています。

 そして3つ目。これがいちばん重要で、専属コーディネーターがいることです。信州たてしな観光協会に、ワーケーションを丸ごとコーディネートできるコンシェルジュのようなスタッフがいます。町のことをよく知っていて、企業側のさまざまな要望に応えて柔軟にプランを組み立て、提案しています。

 この3つが揃っているところは、私が知る限り、現状では他にありません。

成果とこれから

 ワーケーションをはじめて4年目になりますが、その間にはたくさん失敗もしてきました。最初の2年は、それこそ年1,2件しか利用がなくて、自分たちのやり方のどこがまずいのかが分かるまで、それなりに時間を要しました。

 今年に入って、実際にワーケーションで来てくださったある企業から、試験的に住民への業務を受注することになり、少しずつ本来の成果が出てきつつあります。

 新型コロナウイルスのパンデミックで、2020年は期せずしてテレワークが普及しました。オフィスワーカーの多くが、会社に行かなくても仕事ができることを実感したのではないでしょうか。

 感染流行が落ち着いたら、今度はワーケーションが注目を集め始めるでしょう。ワーケーションが本格化する“Xデイ”のために、今は事例を積み上げて、成果が出るワーケーションの提案内容を磨くことに注力します。

 立科町は“ワーケーションの聖地”としてのブランド力を高めつつ、住民にテレワーク事業を通して社会参加する場を提供し続けていきたいと思います。

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