立科WORKTRIPでは「経営視点で検討するワーケーションPROS&CONS」と題した連続ウェビナーを開催中です。9月に開催したVol1「“リフレッシュした”で終わらせない価値を創造する“仕事”の仕方とは?」では、自らを「ワーケーション社労士」と称する岩田佑介さんに、エンゲージメントとワーケーションについてご説明をいただきました。今回はウェビナーの内容をQ&A形式にしてお届けします。
Q.最近よく聞く「エンゲージメント」ってなんですか?
エンゲージメントには大きく分けて「従業員エンゲージメント」と「ワーク・エンゲージメント」の2種類があります。
よく用いられているのは前者で、その定義も複数ありますが、「組織と仕事に対して、自発的な貢献意欲を持ち、主体的に取り組んでいる状態」を指します。他には、「会社を好きだと思う気持ち」、「やりがいを持ち会社に貢献したいと思う姿勢」とも意訳されることがありますね。
Q.なぜ「エンゲージメント」が注目されているのですか?
熱意や貢献意欲にあふれる社員が増えれば、それだけ会社や組織が活性化し、創造性や生産性も上がります。
しかし、アメリカのギャラップ社が2017年に実施した全世界139か国、約1300万人のビジネスパーソンへの調査によると、熱意あふれる社員(エンゲージメントが高い)の割合が、日本は139か国中132位。世界最下位クラスで、対策が急務となっています。
また、コロナ禍により、今後のキャリアについて見つめ直す時間が増えたことや、リモートワークによるストレスにより、早期離職が急激に増加しています。
このような背景から、エンゲージメント戦略が注目されているのではないでしょうか。
Q.コロナ禍でエンゲージメント施策に変化はありますか?
はい、大きく異なります。
コロナ禍以前によく見かけたエンゲージメント施策といえば、オフィスにオシャレなキッチン等のコミュニケーション・スペースをつくったり、社長がピザパーティーを企画したりという、社員間の交流促進によって帰属意識を高めるという取り組みでした。
しかし、コロナ禍で物理的に社員が一堂に会する機会が設けにくくなり、緊急事態宣言が解かれたあともテレワークを継続している会社も多いです。ゆえにこれまでと同じ考え方は通用しません。
今後のエンゲージメント戦略はこれまでの「従業員エンゲージメント」から、「ワーク・エンゲージメント」に軸足がシフトしていくと考えています。つまり、“会社・組織全体”に対する帰属意識や貢献意欲よりも、“仕事そのもの”に対するエンゲージメントを高めることがこれからの主眼になります。ただ、ほとんどの仕事は自分一人では完結しません。日々の仕事で関わりの深い「半径5mのチームワーク」をよりよく構築していくことが今後、一層重要となるでしょう。
Q.ワーク・エンゲージメントを高めていくにはどうしたらいいのですか?
ワーク・エンゲージメントが高い状態とは、仕事に対して「活力・熱意・没頭」がある状態を指しますので、何よりも“仕事そのもの”のやりがいを高めていく必要があります。
具体的な取り組み方法はさまざまありますが、「マイパーパスの言語化」を支援している会社を多く見かけますね。
いま自分が目の前でやっている仕事がどういう意味をもち、何を社会にもたらすのかを捉え直し、それがマイパーパス(自分自身の働く意味・目的)とどう繋がるのかを言語化する。この営みによってワーク・エンゲージメントはかなり向上します。
しかし「何のために働いているのか」という哲学的な問いは、リモートワークしている自宅やいつもの会議室といった日常空間の中では、なかなか出てこないもの。非日常の空間のほうが、そうした問いを考えるのには相応しく、ワーケーションやオフサイトミーティングを活用する事例も多いです。
Q.ワーケーションをすればエンゲージメントが上がるということですか?
チームメンバー全員で職場や自宅から飛び出して、自分やチームの存在意義を改めてディスカッションすることはエンゲージメント向上に繋がると考えています。
一方でワーケーションを「楽しかった」「リフレッシュできた」で終わってしまうと、現実に戻ったとき何も解決していません。どのような目的や内容を設定するかによって、その成果はまったく異なります。
また、発言やアイデアが活発に出て、効果的な場にするには、日ごろの役職等の階層関係を持ち込まずフラットに話せることも重要です。部署の上司・部下みんなでただ旅をするだけでは、旧来型の社員旅行と同じになってしまいますので、全体のコンテンツ設計にも配慮が必要です。
.
.
Q.それでは、どのようなワーケーションの内容がおすすめですか?
前向きなことを話すためには、まずは日頃抱えているモヤモヤを吐き出せるような場をつくることが重要ですので、安心できる環境で悩みを言い合うのも一手です。
あるいは、今まで部門トップだけで作っていた中期計画をメンバーと一緒にディスカッションしながらつくるとか、その前段階でお互いを理解するワークショップを入れ込むのもいいでしょう。チームみんなで課題を解くことで、よりチームの結束力を高めることができます。
Q.必要性は理解できたのですが、上司の理解をどう得ればいいでしょう?
ワーケーションは「目的」ではなく「手段」です。「ワーケーションを実施したい」という提案を上司に対して行うのではなく、その上司が抱えている具体的な業務や組織課題を解決するプランを考えた上で、その手段がたまたま「ワーケーション」になっている、というスタンスがよいでしょう。
たとえば「人材定着」はコロナ禍において、マネージャー層や経営者層の課題になっています。リモートワークを実施している企業の場合、新卒や中途で入社された方と込み入った話や雑談をすることができないため、関係性を構築するのが難しく孤立してしまうケースが見受けられます。放置すると離職や生産性低下にもつながるので、そうした課題解決の場を設けたいという理由で起案してみるのもいいと思います。
Q.ワーケーションの前例がないのですが…
会議・ワークショップを業務としてワーケーション先でやるのであれば、基本的には出張扱いとなります。出張であれば、前例がないとは言えないでしょう。また、出張扱いのワーケーションの場合には、原則として労災の適用にもなります。出張規程が整備されていればワーケーション実施に伴って新しい規程をつくらないといけないということはありません。
ただし労災適用の観点からは、ワーケーション先でアクティビティをする場合には、業務該当性は事前に整理されておくのが望ましいです。またワーケーション先で社員がレンタカーを利用・運転する場合には、事前申請のルールや事故発生時の報告プロセス・初期対応を予め設計しておきましょう。
受け入れ先によっては、怪我のリスクがあるアクティビティではなく、星空鑑賞や湖畔散歩などちょっとしたリフレッシュを提供していますし、車の利用については受け入れ先地域や宿泊施設の送迎があるプランを選ぶというのも手です。
Q.エビデンスを求められたらどうすればいいですか?
ワーケーションによりエンゲージメントが高まるということは実証されています。
株式会社NTTデータ経営研究所、株式会社南紀白浜エアポート、TIS株式会社の3社による、ワーケーションと在宅リモートワークの比較実験によると、ワーケーション中にワーク・エンゲージメントが23.9%も高まることがわかりました。さらに終わった後もエンゲージメントが高まっていたのです。
和歌山ワーケーションは業務生産性および心身健康の向上に寄与 ~在宅リモートワークとの比較~ | NTTデータ経営研究所 (nttdata-strategy.com)
ただ、そもそも「エビデンスがないと駄目」と突っぱねてしまうような組織は非常に心配です。
コロナ禍でリモートワークが浸透し、人と人との関係は大きく変わりました。企業の人事課題も凄まじく複雑化していますので、エビデンスが十分に集まるまでじっと待つのではなく、いますぐ打てる手は全部打った方がいいと思います。
厳しい言い方になってしまいますが、現状維持では停滞を招いてしまいます。この激動の時代に「ワーケーション、どうしようかな」と手をこまねいている場合ではなく、ちょっとでもいいかもと思ったらまず試してみるというスタンスが肝要です。ぜひ、粘り強く意識改革をしていただきたいですね。
プロフィール
岩田 佑介(いわた ゆうすけ)
岩田社会保険労務士事務所 所長
特定社会保険労務士 / 観光庁「ワーケーション推進事業」アドバイザー
大手人材会社にて政府・自治体の地方創生・地域活性化に関する政策の企画運営に従事したのち、組織人事コンサルタントとして中堅・中小企業の組織開発・人事制度設計を手掛ける。その後、ライフネット生命保険株式会社に参画し、人事部長としてリモートワーク・兼業制度などの働き方改革やダイバーシティ戦略を統括。現在では「ワーケーション社労士」として全国各地でのワーケーションを自ら実践しつつ、企業のワークスタイル変革を支援している。