立科WORKTRIPでは「経営視点で検討するワーケーションPROS&CONS」と題した連続ウェビナーを開催してきました。1月に開催したVol.3「ワーケーション推進のハードルをどう乗り越えるか?」では、自らを「ワーケーション社労士」と称する岩田佑介さんに、ワーケーションの労務管理についてご説明をいただきました。今回はウェビナーの内容をQ&A形式にしてお届けします。
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Q.ワーケーションの業務規程が整っていない場合、どうすればよいですか?
規程は、細かい点にも気を配って定めなければなりません。しかし、規程が整っていないことを理由にワーケーションの導入を渋ってしまうのはもったいない。
私がおすすめするのは、まず「トライアルでワーケーションをやってみる」ということです。
ポイントは出張規程。じつは「出張規程がしっかりしていれば、ひとまず大丈夫」というケースも多いんです。まずはトライアルでやってみて、「あ、これも決めなきゃいけない」となったら、テレワーク規程やワーケーション規程に盛り込む、というプロセスですすめてみるのがスムーズだと思います。
Q.労働時間はどのように管理するべきですか?
コロナ禍で在宅勤務を導入した企業は多いと思いますが、ワーケーションについても、基本的にはリモートワーク・テレワークの運用と同じです。「どこで働いていようが、労働時間はちゃんと管理する」という考えでかまいません。
厚生労働省の『テレワークの適切な導入及び実施の推進のためのガイドライン』でも、ワーケーションは「テレワークの一形態である」と明確に書いてありますから、参考にされるとよいと思います。
一方、労働時間の観点で気をつけないといけないのは、ワーケーション先で「アクティビティをする」という場合。アクティビティが完全に業務と切り離されているケースですと、その時間は労働時間外として管理することになるでしょう。
ですので、導入がこれからの企業におすすめなのが、出張としてオフサイトや開発合宿でワーケーションに行く業務型。アクティビティを入れるにしても、業務であることの納得感が出るようなアイスブレイク程度に留めておいて、私的時間と労働時間の境界線をはっきりさせるのが望ましいです。
Q.労災や事故が起きた時のリスクに対してどう備えたらよいですか?
労災についての考えは、「出張命令で行っている」という業務型なのか、「自身の都合で明日は立科町で働きます」と、個人による私的活動による滞在をメインとする個人型なのかで異なります。
業務であれば、原則出張中は労災に該当します。しかし、積極的な私的行為、たとえば泥酔しているときの事故などは、労災に該当しないケースがあります。
重要なのは、労災認定されないリスクを会社がきちんと補償すること。
例を挙げると、ワーケーション中の自由参加のアクティビティ時に亡くなってしまった場合、業務との関連性がないと、出張中であっても労災認定の可能性は低くなってくるのです。
ワーケーションにレジャーやアクティビティの時間を入れるのであれば、民間の旅行傷害保険に加入しておくと、労災認定が下りなくても怪我をした時の補償が手厚くなります。
Q.費用のどこまでを経費の対象と考えたらよいですか?
考え方としては、労災と同じで「業務に紐づくか」がポイントです。
出張として業務型で行く場合、「これは業務上必要なお金」といえるので、基本的には経費とすることが可能です。
一方、ややこしいのは個人の私的旅行中のワーケーションに会社として旅費を出す場合。給与と同じような扱いとなり、所得税の課税対象となるケースがあるので注意が必要です。税務面については、税理士のアドバイスも仰いでください。
Q.ワーケーションに参加できる人・できない人、社内に軋轢が発生しないようにするには?
これも業務型なのか、個人型なのかによって変わってくると思っています。
業務型の場合には、ワーケーションそのものに達成したい目標やミッションがあるはず。その目的に関連する人が行くという話なので公平性はあまり論点になりません。たとえば、事業開発系の部門がインスピレーションを得る合宿等がその一例です。またチームビルディング型のワーケーション等も職種間の不公平は生じづらいです。
ただ、個人型の場合には「リモートワークが完全に出来ること」が前提なので、職種間の不公平感には留意して推進することが重要でしょう。
Q.トライアル中にウォッチしておくべきワーケーションの効用や指標について教えてください
まずは「経営層も一度来てください」と言って、トライアルで連れていっちゃいましょう。
ワーケーションで、チームの関係性がすごく良好になっていったり、ふだん会わない人の話を聞いて自分のインスピレーションが高まったり…。そんなふうにワーケーションを満喫している社員の姿をみてもらうのが一番早いと思います。
来られない場合は、満足度やエンゲージメントの指標をみるということが多いようです。
ワーケーションに行くとストレスレベルが下がったり、エンゲージメントが上がったりすると思うので、そういったものをエビデンスにして、経営層に説明してみてはいかがでしょうか。
Q.それでも社内でワーケーション実現のハードルが高い場合はどうしたらよいでしょうか?
労務、法務、税務を「ワーケーションをやらない言い訳」にするのをやめましょう。
ここまでで解説してきたように、じつはそんなにハードルは高くないのです。
繰り返しになりますが、まずは出張命令やテレワークの延長線上にある、仕事メインの業務型ワーケーションからスタートしていただくと、規程、労災、税務の論点が非常にシンプルになります。それに慣れてきたら、個人のワークスタイルのニーズに合わせたワーケーション制度へと進化させていくというかたちがよいのかなと思います。
経団連の『企業向けワーケーション導入ガイド』には、大手企業の事例やワーケーション規程の案まで載っています。今後ワーケーションを推進していきたい方は、こうしたガイドを経営層に説明するための武器にしていただくのもよいでしょう。
プロフィール
岩田 佑介(いわた ゆうすけ)
岩田社会保険労務士事務所 所長
特定社会保険労務士 / 観光庁「ワーケーション推進事業」アドバイザー
大手人材会社にて政府・自治体の地方創生・地域活性化に関する政策の企画運営に従事したのち、組織人事コンサルタントとして中堅・中小企業の組織開発・人事制度設計を手掛ける。その後、ライフネット生命保険株式会社に参画し、人事部長としてリモートワーク・兼業制度などの働き方改革やダイバーシティ戦略を統括。現在では「ワーケーション社労士」として全国各地でのワーケーションを自ら実践しつつ、企業のワークスタイル変革を支援している。